トーハンは紙の書籍を通じて人々とのつながりを維持したいと考えている。日本の小規模な地方書店に対応する流通業者
書籍卸大手のトーハンが、街中の書店の減少で紙の本に触れる機会が失われている現状に危機感を抱き、小さな書店の出店支援に乗り出した。経済産業省は3月、省長直轄の書店振興プロジェクトチームを立ち上げ、出店促進に向けた取り組みを加速させた。
書店への関心が高まっている。
八ヶ岳の麓、山梨県北杜市に2022年にオープンした「のほほんブックス&コーヒー」は、木目調の内装が心地よい書店だ。
約100平方メートルの店内には、「創る」「考える」などのテーマごとに3000冊の本が並ぶ。
選んだ本は、コピーライターでもある店主の渡辺淳平さん(47)が選んだものだ。
別荘地にある同書店は、移住してきた若いファミリー層に人気。店内でコーヒーを飲むこともできる。「気軽に立ち寄れる空間を提供したい」と渡辺さんは話す。
渡辺さんの書店にヒントを得て、トーハンは「ほにゃる」というプロジェクトを始めた。
書籍卸・流通業は、文庫本や雑誌などの出版物を書店に届け、書店と出版社をつなぐ。
本屋ルは、雑誌を出荷から外すことで輸送費を削減し、月商30万~100万円の小規模書店でもトーハンと取引できるようにする。
幅広い出版物を扱うトーハンと取引することで、小規模書店はさまざまな書籍を揃えることができる。
「既存の書店を潰さない方法だけでなく、書店開業のハードルを下げたい」とトーハンの近藤敏孝社長(63)は語る。
7月に読売新聞がトーハンの取り組みを報じた後、同社には過疎地に書店をオープンしたいという人など約30件の問い合わせが寄せられた。
出版業界の不況に加え、人件費や燃料費の高騰でトラック輸送のコストが上昇し、書籍卸・販売業者の存続が難しくなっている。
トーハンは23年度のグループ全体の連結決算で18億円の経常利益を計上。不動産事業などで利益を確保したものの、書籍卸・流通事業は13億円の損失となった。
それでも、紙の本に触れる場を増やさなければ、人々の関心が薄れ、経営基盤が揺らぐと考えたため、新プロジェクトに着手したという。
日本出版販売が発表した「2023年の出版物販売量」によると、国内の出版物販売のうち、ネット書店経由は20.5%。書店経由の割合は58.2%と、現在でも読者の半数以上が書店で本を購入している。
街の書店の減少は、人々が本に触れる機会を奪い、書籍の売れ行きが低迷するという悪循環を招いている。
日本出版情報基盤整備機構によると、2023年度の全国の書店数は1万918店と、過去10年間で3割減少している。
出版科学研究所の調査によると、同じ期間に街の書店の主力商品だった文庫本の推定販売額は、1293億円から741億円へと4割以上減少している。
文化庁の2023年の調査では、回答者の6割以上が1カ月間に本を1冊も読んでいないと回答した。
文化庁が3月に書店振興プロジェクトチームを立ち上げて以来、書店は地域の文化拠点であるという認識が高まっている。
同省は4日、書籍業界関係者へのヒアリングなどを経て、書店活性化に向けた課題をまとめた。書籍流通の仕組みや図書館の書籍仕入れの在り方など。
また、同省は書店向けに支援策の活用方法をまとめたガイドも公表した。
同ガイドでは、中小企業や小売業者向けに実施されている支援事業や補助金制度の中から書店が活用できる施策を紹介。新規参入も促している。
「幅広い書籍を取り扱うネット書店の登場で読者の意識が変わり、セレクトショップ感覚の小さな書店が注目されている。多様な形態の書店づくりが重要になると思う」と、メディア研究が専門の上智大学の柴野京子教授は語る。
対面で商売する小さな書店をどう育てていくか、政府も民間も問われている。
書店が行動を起こす
書店はペーパーバックの宣伝に積極的に取り組んでいる。
この秋、京都府などに店舗を持つ鳥取県の今井書店やブックス大垣など12の書店が、最も売れているペーパーバック小説を選ぶイベント「BUN-1グランプリ」をスタートさせた。
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